迫り来るゾンビ

昼間。人気のない見覚えのある街で、多くの荷物を背負いながら、ベビーカーを押して歩いていた。ベビーカーの中には眠りこくった赤ちゃん。

するとどこからともなく幾人かの人影が現れ、だんだんとこちらに近づいてくる。

最初は誰なのかよくわからなかった。

しかしよく見ると、ゲームや海外のホラー映画で見たことがある風貌で、右肩をいからせ、左肩をだらんと力なく下に垂らしうぅーとかあぁーとか寝言のように唸っている。目は白目。

いかにも『私、異常です、腐乱しています』と言わんばかりの見た目だった。

ゾンビだ!と心の中で叫んだ。ゲームか映画で見たことのあるゾンビが3体くらいでこちらへやってくる。

ゾンビの姿は中肉中背で若い人のようにも見える。まだ顔や衣服の劣化は進んでいないので比較的最近ゾンビ化したようだ。

危険を察知し、ベビーカーを方向転換させ彼らが近づいて来るのとは逆の方へ走り始めた。

しかし背中の荷物が重いからか、アスファルトの道路にベビーカーの足がとられるからか、なかなか前に進めない。

そして走ってはいるが思うように大地を蹴って先に進むことが出来ない。恐怖で足がすくんでいるようだ。

ゾンビは迫って来る。

だんだんと距離は詰められ、

背中の荷物に手が届きそうなところまで迫って来た。

どうでも良い荷物なら捨てれば良かったが、今背負っているものは到底そんな気にはなれなかった。なにか命に関する重要な資源を背負っていたからだ。

赤ん坊の乗ったベビーカーを押し続け、捕まると思っては避け、また距離をとっては追いつかれる。そんなことをしばらく繰り返して走り続けた。

ゆ、夢なら醒めてー!

と僕は半泣きで声にならない声で叫んだ。

と思った次の瞬間、夢から醒めた。

意識が覚醒して23秒は、なんだ、何が起こった、という感じだった。

まぶたが張り付いて目が開けづらい。

上のまぶたがぎしぎしと軋みながら、なんとか目を開くと外は好天のようで、光が窓から差し込んでいる。

午前8時。

新型コロナの影響で、街に外出自粛ムードが広がってから数日目の朝。

毎日、携帯に飛び込んでくるニュース、都知事の記者会見などをみて世の中は大丈夫なのだろうか、家族は知人は無事だろうかと気を揉む。

そしてそういったニュースを寝る前もチェックするうちに、コロナという強大な感染症がゾンビに姿を変えて夢に出てきたようだった。

ゾンビとは、ゲーム、ドラマや映画の作品で、生きている人に噛みついて殺し、生きている人も次々とゾンビになっていくというそれはそれは恐ろしい感染力を持つ、という設定がほとんどだ。

 

実は今、世界中で悪夢をみる人が増えているらしい。それをコロナウイルス・パンデミック・ドリームと言うそうだ。

外出自粛や、いつ感染するかわからない恐怖などが影響してストレスとなりこのような夢を見てしまうらしい。

そして僕が読んだ記事では、コロナウイルスによって頻繁に悪夢を見てしまう人のために、夢をコントロールする方法も書いてあった。

その方法とは、悪夢の内容がどのように変わればストレスでなくなるかを書き出し、悪夢の脚本を変える、そして寝る前に頭の中でその脚本を思い描くというもの。

(その記事では、襲ってくるものをアリの大きさに縮める、などのアイディアが書いてあった。)

例えば僕のゾンビに追われる夢では、3体のゾンビが10カラットのダイヤ、ルビー、サファイアに姿を変えて登場すれば、逃げるどころかもちろん喜んでお持ち帰りするだろう。

そのように夢を操作出来れば、悪夢を幸福な夢にも変えられるかもしれない。

面白そうなので是非やってみよう。

最近、コロナの影響か変な夢を見るという方は、夢のコントロールを是非やってみてください。

 

そして現実にはコロナの脅威は依然として強大なままだ。

自分の身を守りながら、大切な人を気に掛けて生きる。

今家から出られない日々の中で、僕はそういう時間を過ごしている。