「まずは強力粉、こちらです!ありますね!
次はベーキングパウダー、あ、もうこの小さな缶しかない。はいどうぞ。」
店員さんが手渡してくれたベーキングパウダーの小さな缶を見て、この量で足りるのか僕が訊くと、
「ベーキングパウダーはそんなに沢山使うものではないから足りますよ。」
と教えてくれた。
店員さん「じゃあ次、お砂糖!」
先日、隣駅にある実家に物資を届けるため、
僕は駅前のスーパーに行った。
なるべく食料が持つように野菜を大量にカゴに入れ、肉類、魚、乳製品、パンなどを買い込む。
買い物の途中で実家に暮らす姉からメールが来た。
姉「もし荷物に余裕があったら強力粉、ベーキングパウダー、砂糖、バター、ヨーグルトを買ってきてくれないかな?」という内容。
運搬は足で運ぶので、余裕あるかな…と思ったけど、まずは買っていくべき食材をカゴに全て入れてみたら、まだ買い物カゴに入りそうだったので姉のおつかいも頼まれることにした。
しかし、強力粉やベーキングパウダーの場所がわからない。
いったい売り場はどこなんだろう。
なるべく“密“状態を避けるため、平日のランチの時間にスーパーに行ったが、人はすでに結構いる。
あまり迷ってうろうろもしていられない。
レジ付近で作業中だった少し年配の女性店員さんに聞いてみた。
すると、その店員さんは「ケーキを作るんですよね?今そういう方が多いから、あったかなぁ…」といいながらキビキビと僕を先導し始めた。
(外出自粛のこの時期、家で料理やお菓子作りに励む人が多いみたい。)
人で塞がる通路を縫って店員さんは僕を次々いくつものコーナーへ先導。
売り場の分からない商品を全て共に行動して教えてくれた。
バターとヨーグルトは乳製品なのでさすがに売り場はわかるので店員さんにお礼を伝えて別れた。
今のコロナの現状で、スーパーの中ではマスクの着用を求められる事が増えている。
そして密状態を避けるため、3日に一度の買い物を、と都も推奨している。
そういう状況であれば、目に見えないウイルスのようにストレスと恐怖は増大してスーパーの買い物客、そして働いている店員さんもピリピリしてしまいがちだと思う。
僕を案内してくれた店員さんは、キビキビとスピーディーに、僕が必要としている情報を与えながら快く接してくれた。
買い物の精算でレジで並んでいる時、偶然僕の列のレジを担当していたのがその女性店員さんだった。
僕は最後に「本当に助かりました、ありがとうございました。」とお礼を言うと、
その店員さんはにこっと笑って一言。
「いえ、仕事ですから。」
そうだ、医療はもとより、食を扱うスーパーやコンビニ、薬局、宅配便など、休まずに働いていてくれる人がいるから僕はこうして物を買えるし生活が出来る。
その女性店員さんからは、コロナ禍という状況、混み合うスーパーの中でも、(当然不安はあるだろうが、)恐怖によって自分の形を歪めず仕事を全うしようとする、なにか覚悟のようなものを感じた。
スーパーから出て実家に向かう道で、
僕は店員さんへの感謝の気持ちで荷物の重さを忘れて歩いた。